「形見」と聞いて思い浮かぶのは、生前故人が大切にしていた万年筆や懐中時計ですが、最近は物をあまり持たない風潮があり、形見を受け取る側の負担にならないように、物ではなく現金を渡したいと考える方がいらっしゃいます。
しかし、形見として現金を渡しても良いのか、渡す時のマナーはあるのか、そもそも形見分けについて詳しくわからない、という方も多いと思います。
当コラムでは、形見分けの基本から現金で渡せるかどうかを解説します。
形見分けとは、故人の遺品を生前とりわけ仲が良かった親族や、生前深い交流のあった部下に分け与える文化です。血縁者だから、部下や後輩にあたるから、という理由だけで分配するのではなく、”生前親しくしていた親族や友人が故人の形見を受け取ることで供養する”という意味合いが強く、物を大切にする日本らしい儀式です。
形見分けは古くからあるしきたりですので、基本的なルールやマナーがあります。
形見分けをいつするかは特に決まっていません。なぜなら、形見分けをする前に遺品整理を行い、遺品を仕分けなければならないためです。遺品整理に要する時間は故人の家の状態(間取りや物の数)に大きく左右されるため、明確な時期は決められません。
一般的に形見分けが行われやすいタイミングは、
・忌明けにあたる四十九日法要
・一周忌などの節目
です。(※宗派によって忌明けの日数は変わります。)
形見分けは基本的に手渡しで行うものなので、親族一同が集まる機会に行うことで負担が少なく済みます。遺品整理の際に遺言状などが見つかった場合は、故人の意思を確認した上で形見分けを行う前に親族で形見についてどうするかを話し合いましょう。
親族が集まる日までに遺品整理を行うことが難しい場合は、遺品整理業者に依頼するのがおすすめです。スピーディな遺品整理に加え、清掃や不用品の処分も代行してくれます。また、豊富なノウハウを持っているため、遺品や相続に関するアドバイスもしてもらえます。故人の部屋が賃貸など家賃の発生する家の場合は特に頼りになるでしょう。
古くからの儀式ではありますが、形見分けは無理に行わなくてもよい儀式です。
故人への思い入れが強かったり、故人の遺言などから形見を託したい意思が確認できている、形見を通して故人を偲びたい気持ちがある場合は、形見分けをすると良いでしょう。逆に、形見を受け取ることが重荷になることもありますので、その場合は形見分けをしなくても問題ありません。
故人の子供や孫、甥、姪、部下や後輩など、故人よりも若い方や後輩へ分けるのが一般的です。逆に、目上の方に形見分けをすることはマナー違反です。しかし近年は形式にとらわれず、自由に形見分けをすることもできる場合も増えています。ただし、高齢の方や形式を重んじる方など、贈る相手にとって失礼になる可能性もありますので気をつけましょう。
深い交流のあった方の中から、「形見を受け取って喜んでもらえそうな方」や「大切に手元に置いてくれそうな方」に声をかけていきます。形見分けが迷惑になってしまう場合もあるので、必ず事前に確認をとりましょう。
遺品には様々な物がありますが、よく形見分けされる物は以下の通りです。
供養するための儀式なので、故人が愛用していた物や作った物が形見分けされやすいです。
・時計
・文房具
・衣類やアクセサリー
・バッグ
・故人と一緒に写っている写真
・趣味の物
形見分けが決まった物は、渡す前に綺麗にしましょう。衣類やアクセサリーなどの身につけるものはもちろん、趣味の道具や家具も隅々まで磨いて綺麗にしておくのがマナーです。
破損していたり、キズや汚れが目立つ場合は贈らないのが基本ですが、相手の了承を得ていれば贈ってもかまいません。
形見は、受け取る人に直接手渡しをするのが基本です。プレゼントではないので、包装はせずにそのままの状態で渡すのが一般的ですが、気になるようでしたら、半紙で軽く巻いて渡すとよいでしょう。どうしても直接渡せない場合は、事前に受け取る相手に連絡をしてから宅配で送りましょう。
現金は財産分与に該当する可能性がありますが、故人の強い希望があれば形見分けすることができます。
現金を形見分けする際は、贈与税に気をつけましょう。贈与税が発生するのは金額が110万円以上を超える場合です。また、相続人との合意がとれていないまま現金を受け取ってしまうと相続トラブルに発展する可能性がありますので、きちんと話し合って合意をとってから受け取りましょう。
現金を形見分けする際は、無地の白い封筒に入れ、「故人の希望で、このような形で形見分けをさせていただきました。お受け取りいただけますと幸いです。」という風に、理由と形見である旨を添えます。そして他の形見と同様に渡す時は手渡しをしましょう。
形見分けの際に気を付けたいことをご紹介します。
3章でも触れましたが、110万円以上の価値がある物を受け取ると、贈与税が発生します。これは現金に限らず、芸術品や車など資産的価値があるものも対象になります。資産的価値がある物は形見ではなく遺産という扱いになるため、遺産分割などの法的な手続きが必要ですので、素人目では価値がわかりづらい絵画や骨董品を査定に出さず形見分けしてしまい、後々相続問題に発展するケースもあります。
そのようなトラブルを防ぐため、遺品整理の際に見つけた絵画、骨董品、着物、貴金属など価値のありそうな物は、形見分けをする前にプロの鑑定士に査定してもらい、価値をハッキリさせておきましょう。
もし時間や人手に余裕がなく、査定しに行く余裕がない、故人が大量にコレクションしていて運搬・持ち込みが難しいという場合は、遺品整理業者にサポートをしてもらうのがおすすめです。遺品整理業者はサービスとして遺品の買取も実施していることが多く、遺品整理の依頼とあわせて遺品の査定を申し込むことができます。
査定の経験やノウハウを豊富に持っている鑑定士が在籍している業者もありますので、故人が絵画や壺をコレクションしていたなど、専門知識が必要な場合は遺品整理作業とあわせて活用してみると遺品整理に関する負担が軽くなります。
ここまで形見分けを贈る際の基本的なことを説明してきましたが、逆に形見を受け取った時はどうすればよいのでしょうか。
形見分けを受け取っても、お返しの品を贈る必要はありません。むしろ返さないのがマナーです。ちなみに、お礼の電話・メールは失礼に当たりませんので、改めて連絡をするのは問題ありません。形見を受け取った際に一番大切なのは、受け取った形見を大切にする気持ちです。
最初に申し上げた通り、形見分けは供養の意味合いが強い儀式です。もし物ではなく現金を受け取った場合は、そのお金で故人様を連想できるような物を買ってもよいでしょう。
形見分けは故人の品物と気持ちを取り扱う大切な儀式です。基本的なマナーを覚えておけば、双方にとってトラブルの無い、気持ちのよい形見分けができますし、故人もきっと喜ばれるでしょう。
当コラムが少しでも参考になりますと幸いです。