身辺整理はご遺族のみが行う作業ではありません。
ご自身が元気なうちに身の回りの物を整理しておくことで、突然の事態が訪れてもご遺族に迷惑をかけることなく最期の時を迎えることができます。
「終活に手を出すのはまだ早い」と考えている方も、この機会にご自身の人生を振り返りながらお部屋の整理を始めてみてはいかがでしょうか。
今回は終活における身辺整理のやり方についてご説明いたします。
終活として身辺整理を行うメリットですが、ご自身の判断で事前に物を片付けておくことで残されたご家族や親族に迷惑がかからないことが挙げられます。
ご自宅の中で静かに生活しているだけでも必要な家電や道具を次々に買い足す必要がありますが、突然自分が死亡してしまった場合、それらを片付けなければならないのは残されたご家族です。葬儀屋や遺産相続の手続きに追われている中で遺品整理も進めなければならず、かなりの負担をかけてしまうことになります。
そして、身辺整理は残されたご家族に迷惑をかけないようにするだけでなく、現在生活している空間をスッキリとさせる効果もあります。残りの人生を快適に過ごしやすくするためにも、身辺整理は気力や体力が十分あるうちに進めておくことが望ましいです。
第二のメリットとして、ご自身の判断で持ち物を整理することで、これからの人生について考える機会になることが挙げられます。身辺整理と聞くと「断捨離」をイメージされる方もいらっしゃいますが、物を減らすことが目的の断捨離と、人生と向き合いながら持ち物を取捨選択していく身辺整理は全く違います。
例として、積んだままの本を仕分けて要らない本はキッパリと処分し、残った本を大切に読み進めたりするように、これから必要になる最低限の大切な品を手元に残すようにします。それらは単に品物に絡む事柄だけではなく、宙ぶらりんになったままの人間関係や、心残りになっている未達成の目標を振り返ることで、今日というこの日をどのように過ごすのかを考える絶好の機会になるかもしれません。
身辺整理の基本は普段の掃除と違い、必要の無い物を処分して部屋に保管している物を減らすことが重要です。
けれども自分自身が亡くなった後に必要になる物とそうでない物を分別することは、何かの基準が無いと判断することは難しいでしょう。
身辺整理ではどのようなものを処分し、保管すればよいのでしょうか。
こちらでは身辺整理において必ず整頓しておきたいものをまとめました。
預金通帳や保険証書、有価証券など財産にかかわるものや、保険証、年金手帳、確定申告関連の書類など死亡後の手続きに必要となるものはいつでも取り出せる場所に保管し、保管場所も家族に伝えておくようにしましょう。
また、電気やガス、電話、インターネットや動画サービスなどの契約先、クレジットカードの登録情報などもノートなどに明記しておくと死亡後の解約手続きに役立ちます。
もし使っていない預金通帳やクレジットカードがある場合は、この時点で解約しておいて構いません。
資産にかかわる書類だけでなく、ローンや借金など、負債の金額も明確に把握しておくことも必要です。残された家族に借金を負わせないよう忘れずに整理しておきましょう。
ついつい家具や衣類の整理ばかりに意識が向いてしまいますが、パソコンやスマートフォンのデータも整理しておきましょう。
電子機器に保存したデータの中には、家族やご友人と一緒に撮影した写真、インターネットの検索履歴など、様々な個人情報が保存されています。
たとえご家族であっても他人に見られたくないデータなども保存されているのではないでしょうか。第三者に見られてしまう前に、自分自身の手でデータの削除、整理をしておくことをおすすめいたします。
SNSなどのアカウントは放置しているといつの間にか第三者に乗っ取られてしまうことがあり、ご家族が気づかないうちに誹謗中傷や個人情報の漏洩、詐欺関連の投稿をされて、裁判に巻き込まれてしまう可能性があります。
使わないSNSはアカウントを削除するか、運営サポートに連絡してサービスを停止してもらうようにしましょう。
そして個人情報だけでなく、株や仮想通貨など、インターネット上の財産も整理しておきましょう。特にネット銀行やクレジットカードのID、カード番号のパスワードを伝えておかないと、残されたご遺族が引き出したり口座の凍結手続きが困難になってしまいます。
なかなか捨てづらい写真やビデオテープ、DVDなどは捨てる基準を決めると処分の判断がつきやすくなります。良い思い出はない、うまく写っていないなど、写真をパッと見ただけで判断できる基準を作れば、思い出の品をスムーズに捨てることができます。
パソコンに動画や写真を取り込み、データとして保存しておくのもおすすめです。
思い出の品の処分をしているとついつい回想にふけってしまい、作業も止まりがちです。終活としての身辺整理は、歩んできた人生を振りながら行うことも目的の一つですので、この機会に時間をたっぷりと使い当時のご自身の気持ちや環境を思い出してみましょう。
じっくりと過去を懐かしみながら処分ができるよう、思い出の品の処分は身辺整理の最後の段階で始めることをおすすめいたします。
*整理方法
「整理」と聞くと保管か処分の2択を迫られるように感じられますが、不用な品を手放す手段はいくつかあります。
その一つが売却です。せっかく収集したコレクションや、まだ使える家電類は処分ではなく、売却して新しい持ち主の元で活躍させてあげれば、罪悪感なく整理が行えるはずです。売却方法も専門店への持ち込みだけではなく、フリマアプリやオークション、出張買取の依頼など、品物の種類や量、ご自身のスケジュールなどにあわせて選ぶことができます。
衣服・書籍などは寄付したり、需要の高い品種で欲しがっている人に心当たりがあるなら譲渡する方法を探ってみたりと、単に処分する以外に愛用品を手放す方法を考えるのも、やりがいがあって楽しいものです。
ただし、整理を行う以上は保管・保留といったような曖昧な判断は出来るだけ下さずに「今必要か」「思い出の品やプレミア品など、今手放したら二度と手に入らない物ではないか」を基準に、思い切って判断することも大切です。
身辺整理は自分の財産に関するものだけが対象ではありません。自分の死後、誰に連絡を入れるか、誰を葬儀に呼ぶかを考えておきましょう。
また、ご友人と解決していない喧嘩や訴訟を未解決のままにしている方は、関係を修復されるか、潔く決裂を選ぶと未練なく人生を終えることができます。長い間会っていない友人や親戚、残りの人生を一緒に過ごしたい人達を明確にし、今後お付き合いすべき相手を整理しておきましょう。
とはいえ、いきなり人間関係に動きが生じることに、抵抗がある方も多いと思います。そのような方には、親戚や知人に毎年送っていた年賀状を廃止する意志を伝える「年賀状じまい」や、SNSで繋がっている人を見直す等の小さなことから始めてみましょう。これもお付き合いを終了する人間関係の整理の一つです。
エンディングノートとは自分の死後、残された家族に伝えたいことを記しておくノートのことです。エンディングノートと遺言状の違いは法的な拘束力を持たないことです。そのため、遺言状よりも形式を気にせず、自分の希望を自由に記述することができます。死後の希望だけでなく、ご遺族に宛てたメッセージなども書き記しておくことができるので、終活には欠かせないアイテムとして紹介されることも多いです。また、エンディングノートは死期が迫った時に書くものというイメージがありますが、何歳から始めても問題ありません。むしろ、人生を振り返る良いきっかけになりますので、どの世代の方にもおすすめのツールです。
しかし、自由に記入するといわれても戸惑ってしまう方も多いと思いますので、まずは「何を目的に作成するのか?」を決めてみてはいかがでしょうか。
例として「これからの人生の目標を探したい」という場合には、これまで起きた出来事を自分史としてまとめることで心残りを探してみたり、途中で止めてしまった趣味や少しでも興味のあることをリストアップしてみましょう。「残していく家族が心配」という場合には財産や葬儀の希望を取りまとめてみるなど、ご自身が身辺整理を行うにあたって関心がある、もしくは気がかりなことを整理して記すものであると考えれば、書くべき内容がなんとなく掴めてくるのではないでしょうか。
エンディングノート専用のコラムや記入欄が充実したノートも販売されていますが、記録する媒体に決まりはありません。直筆で書くならお手持ちのノート、記入する量が多い場合や修正のしやすさを重視するならパソコンなどで作成するとよいでしょう。電子で作成した際は、遺族が内容を閲覧しないまま処分してしまう事態を防ぐため、プリントアウトしておくかパスワードを含め保管していることを共有しておきましょう。ご自身にあった方法で伝えたい情報を自由な形式で記入すれば、エンディングノートの完成です。
次章ではエンディングノートの利用方法をより詳しく解説します。
先ほどもご説明した通り、エンディングノートには法的な拘束力がありません。自分が残される家族へ伝えたいことを自由に書いて問題ありません。
解約してほしいサービス(サブスク、SNSアカウント等)の一覧や、ご友人の電話番号とお名前、財産についての情報について書いておくことがおすすめです。各種サービスのログイン情報はご自身が元気な間も備忘録として使えるので、書いておくと便利です。また、ペットを飼っている場合はペットの情報も忘れずに書き記しましょう。
何から書けばいいか分からないという方は、例えば自分が望む葬儀の形式について書き始めてみるのはいかがでしょうか。葬儀に呼んでほしい友人の連絡先や、希望する葬儀の規模、棺桶に入れてほしいお花など、このように見送られたいと思う希望や、葬儀の予算と費用をどこから出すのか、遺影に使う写真の保管場所など必要事項を記しておくなど、思ったことはどんどん記入し、満足のいくようにノートを完成させてみましょう。
また、ノートは他人が見て理解できるように記入することを忘れないようにしてください。エンディングノートを参考にするのは自分ではなく残された家族なので、必要な情報が書かれていなかったり、遺言や希望以外の内容が記入されていたりすると読み手を混乱させてしまいます。プライベートな内容が主になりますので、万が一盗難されないようにエンディングノートの保管場所は慎重に決めましょう。
身辺整理は想像よりも時間と体力を使うため、ご自身の体が元気なときに手を付けておきたいところです。
生活用品や雑貨などを処分する際は、リサイクルショップやフリマアプリを利用して売却するのも一つの手段です。遺品整理業者の中には不要になった家具や家電の回収、買取を行っている業者も存在しますので、時間と労力に合わせて利用を検討してみてください。
身辺整理をすることで残されたご家族に迷惑をかけることを防げるだけでなく、残りの人生もすっきりとした空間で送ることができます。
まずは身の回りの衣類など小さな物から身辺整理を始めてみてはいかがでしょうか。